Saudade(サウダージ)をどう訳す?
- MIDORi
- 2020年7月29日
- 読了時間: 3分
もう20年以上前のことです。
海外から来日する政府要人の接遇手配を担当していたとき、一緒に仕事をしたポルトガル語の日系人通訳さんに「唐突ですが、サウージ、サウダージってどういう意味ですか?」と質問したことがありました。
当時はまだスペイン語と英語しか知らなくて、FMラジオ番組「SAÚDE! SAUDADE」のタイトルの意味がよくわからずモヤモヤを抱えていました。
Saúdeサウージは、スペイン語のSalud(健康)に似ているのでわかりましたが、Saudade(サウダージ)は似ている単語が全く思いつかず、皆目見当がつきませんでした。
その時いただいた通訳さんの回答です。
「サウダージはなかなか訳すのが難しいんだけど、日本語で言う郷愁みたいな感じかしら。どう使われるかによって訳し方が変わってくるわね。ちなみに、この番組タイトルからだけでは、訳せないわ~」と仰っていました。
先週のライブで、久しぶりに「Chega de saudade(想いあふれて)」を演奏したので、この曲でいうところのSaudadeの意味をライブ前に今一度考えてみました。
まず、Saudadeをオンラインポルトガル語辞書"Dicio"で調べました。
”Sentimento nostálgico causado pela ausência de algo, de alguém, de um lugar ou pela vontade de reviver experiências, situações ou momentos já passados” 物や人、場所の不在が引き起こすノスタルジックな感情。または、過去の経験や状況、過ぎ去った時間をよみがえらせたいという欲求が引き起こすノスタルジックな感情。
要するに、目の前にない対象への感傷的な想いということですね。
「Chega de saudade」の場合、日本語タイトル「想いあふれて」から想像がつくように、Saudadeは愛する女性に向けられています。
次に、歌詞中に出てくるChega de saudadeが英語圏とスペイン語圏では一般的にどう訳されているのか、調べてみました。
英語:Enough missing her
スペイン語:Basta de echarla de menos
両者を日本語に直訳すると、いずれも「彼女を恋しがるのはもうたくさんだ」です。
やはり、英語にもスペイン語にもSaudadeという名詞とぴったり一致する単語がなく、一単語では訳しきれない、ということを確認しました。日本語の「郷愁」にあたるNostalgy/Nostalgiaもここではしっくりきません。
Chega de saudadeの”Saudade”だけをみると「寂しさ」でも「懐かしさ」でも「想い」だけでもまだ不十分で、目の前にいない愛する女性に対する「切ない恋しさ」という感情が最もしっくりくるように思います。
しかし、”Chega de saudadeの一文をどう訳すかを考えたとき、直訳して「切ない恋しさはもうたくさんだ」としてしまうと情緒さが失われ興ざめです。
やはり「想いあふれて」が文学的に最も相応しい日本語訳だと思います。
最初に訳出した人に改めて敬意を表します。
翻訳というのは、ただ辞書をみて訳せばいいというものではなく、直訳して痛い目にあう場合もありますので細心の注意が必要です。
今後Saudadeが歌詞に出てくる他の曲を演奏するときも、今まではイメージを漠然とだけ捉えていましたが、今回のようにどんなサウダージか文字でまとめてみようと思います!
Chega de saudadeは私の1st CD “Natural”に収録されています。
まだ聴いたことのないかたはぜひ聴いてみてくださいねー!ホームページに情報載せてます!
写真は所蔵CD & DVDからChega de saudade が収録されているものをピックアップしました。
全て、ブラジルの親戚からプレゼントしてもらったものばかりで擦り切れてなくなりそうになるまで聴いてきた宝物です。
